いつまでも
突然のことだった。いや、予兆はあった。食事を取るのが億劫で、オーブンで解凍したパンばかりを口に押し込むようになった。朝早くに目が覚めるようになり、することもなくベッドに横たわって朝を待った。
そうしてある日、仕事中に涙が止まらなくなった。
そこに至ってジャン・ヴィクマールは産業医から休職を宣言された。
原因は分からない。ただ駄目になった。人間関係? しかし同じ職場に勤めてもう五年経つ。職務内容? これも三年前から変わらない。プライベート? これはもっと前から不変だ。あるいはその時間が彼を駄目にしたのか?
週一回のカウンセリングはすぐに原因を探るのを諦めて現実のアドバイスへと移行した。生活に潤いを持ちましょう。食事に楽しみを。睡眠薬を使ってでも十分な休息を取り、そうですね……運動も健康にいいです。それから考え方の癖を知りましょう。いつも悲観的に考えてはいませんか?
それらのすべてを律儀に守っても、ジャンが職場に復帰するまでに一年以上の時間がかかった。傷病保険はとうの昔に手当の支給をやめて、なけなしの貯金は底をつき、実家へ打ち明け話をして金の無心をする寸前。
軽微な事務作業を二週間、毎朝職場に行って引き返すだけの訓練を二週間経てジャン・ヴィクマールは四十一分署の所長の前に立った。
「復職おめでとう」
ジャンはその言葉を奥歯を強く噛み締めながら受け取る。
署長は本当に喜んでいる。ジャンは彼の表情からそう判断する。RCMは慢性的に人手不足だ。署長にとっても、職場にとっても復職はめでたい。ジャンの人生においては? さて、少なくともうつ病の人間の働き口はここ以外に見つかっていない。
「はい。ありがとうございます」
ジャンの儀礼的な返事に署長は目元を緩める。
「きみもすぐに元の仕事につくのは大変だろう。優秀なパートナーをつけるから、当分はその補助に回るといい」
RCMにおける優秀の定義は何だったかしらん? ジャンは訝しんだ。書類上の話をするなら事件解決数が多い人間だ。その相棒なら激務だろう。現場の定義を言うなら怠惰な人間だ。未解決事件が積み上がったとしても、上層部はともかく現場は痛くも痒くもない。仕事をしなくても仕事を増やすことはないのだ。別の定義では置物と言うのだったか。
自分はそういう存在になったのだろうか。ジャンは変えられなかった思考の癖で憂鬱に思う。指示されたとおりに署長室を出て、相棒が待っているという会議室のドアをノックする。
ハリアー・デュボアがそこにいた。
「やあ、大変だったと聞いているよ。なに、仕事なら俺が二人分賄う。とりあえず一緒に走ってくれればそれでいいさ」
事件を解決する意欲、粘り強さに関して誰にも引けを取らず、ユーモアがあり、親しみやすい。四十一分署で最も高名な刑事だ。
ジャンは震える手で彼の手を取った。あたたかい手が力強くジャンの手を握りこむ。ああ、自分は走れる、走らなければ。そう思う。
それは久しぶりに感じる欲求で、生の実感で、生きる喜びだった。その瞬間、捨てられない憧憬が彼に焼き付いた。