すべて世は事もなし

 その男が目についたのは、単に他と違った見た目をしていたからだ。レヴァショールではソゥル人はあまり見ない。革命以後はなおさらだ。黄色い肌、低い背丈、痩せて、眼鏡をかけている。話に聞くソゥル人の見た目そのものの人間が、どうしてか革命的なジャケットを着て通りを歩いている。

 革命時のソゥル人には保守派が多かったのではなかったか? 私は首を傾げ、その男を目で追った。

「ばんっ」

 誰かの陽気な声が響いて、私は男から目を逸らし声の持ち主を探す。ディスコ風の緑のジャケットを着た、髭を生やした男が背後に立っていた。指はピストルの形をして私の方を向いている。

「お兄さん、ぼうっとしているね。気がかりなことでも?」

 一体何事だ、と思ったところで彼のジャケットに縫い付けられたRCMの徽章に気が付いた。どうやら私のほうが不審に見られていたらしい。確かに、ソゥル人の男は歩いていただけだが私のほうは何もない路上で突っ立っている。私は苦笑して首を振る。

「いや、仕事に行くのが億劫でね」

 架空の弾を払い除けるように手を振ると、RCMの男がにかりと笑う。RCMというにはどうにも呑気で人懐こい印象の男だ。

「路上で悩むのはお勧めしないな。話を聞こうか?」
「いや、結構。あんたの言う通りだ。とりあえずは職場まで歩くさ」

 私が歩き出すのを、RCMの男は手を振って見送った。どうやら見逃してくれるらしい。男のほうも遠ざかる気配がした。遠く、声が聞こえてくる。

「キム、あっちに抜け道があった。これで中に入れるぞ」
「警部補、勝手にいなくならないでくれ。探したんだ」

 ああ、あのソゥル人の男もRCMだったのか。振り返ると彼らの背中の徽章が太陽の光を反射して白く輝いているのが見えた。

 革命的な、ソゥル人の、RCMの男――もしかして倫理主義者か? ご苦労なことだ。わざわざ異邦の治安維持に協力したいなど。

 それから陽気なディスコ風の男。おかしな組み合わせだ。しかし、すべてどうでもよいことだ。世界はすべてあるがままの姿をして今日もある。私は今度こそ踵を返し一歩を踏み出した。