告白問答

「もう取り返しのつかないもののために、キミはそこまでできるんだね。零れたミルクをかき集めているみたいだ」

 背後から投げかけられた声に、フェニックスは静かに振り返る。フォルネウスが小首を傾げてこちらを見ていた。彼の青い目は透き通って冷たい。あれ以来、隠さなくなった無感動にフェニックスの心も冷える。

「どういう意味です?」
「言葉通りさ。罪は過去にある。過ぎ去ってしまったものは取り返しがつかない」

 教師が教える事実のようにつまらない、当たり前の言葉だった。それでもそれは警句のようにがらんどうの深夜の図書室に響く。

 フェニックスは目を細める。薄暗いなか、彼の金髪がランプの明かりを弾いて光る。なるほど彼は宣教師だ。人々は彼に落ち着きと、異質さと、ぶれることのない芯を見出すだろう。異世界からの美しい来訪者が語る言葉に興味を持たないヴィータがどれほどいるだろうか。それでもフェニックスの声は尖った。

「処刑が無意味だと?」
「被害者感情の救済という意味ではね。ボクが村長クンたちに空けた穴は、同じもの――彼らの命そのものでしか塞げない。償いなんて夢物語だ」

 真面目くさって言う彼に、フェニックスは思わず笑いそうになった。

「あなたは何も知らないだけだ。罪がどれほど人を低きに落とすのか。罪の重さは永遠にその人に纏わりつき、落ちる先に果てはない」
「そうかな」

 罪を罪とも思わなかった男がぱちりと瞬く。

「それは――キミがそう感じているからじゃない?」

 それがあの『蒼の組曲』がらみの話だと、フェニックスにはわかった。唇を引き結んで、軽く頷く。

「――そうかもしれませんね。処刑は確かに、完全に被害者を救うことはないでしょう。けれど処刑の役割は一つではない」

 フェニックスがずっと自分に言い聞かせていた言葉を口に出す。

「処刑は、被害者を救い、社会を安定させ、そして――犯罪者自体を救う」
「犯罪者を」

 いつの間にか、立場が逆転している。まるで出来の悪い生徒を見るように、フェニックスはフォルネウスと向き合った。

「あなたに、分かってもらえるとは思いません。それでも、この剣でもって私はあなたを罪から救う。あなたの無垢な未来のために」
「ボクを救済するのかい」
「ええ」

 いっそ挑戦的に、フェニックスはぐいと顎を上げた。ふたり、微動だにせず見つめ合う。

「それは――うん」

 フォルネウスは、花が咲くように笑った。

「楽しみに待っている」