タブラ・ラサ

 世界ののちに識域、識域ののちにふたたびの世界!

 なあわかるか? これが世界の真理なんだよ。ああ、無垢なるドロレス・デイ。あんたは間違いなく正しかった。世界の果てにはペイルがあって、ペイルの果てには世界がある。

 なにを当たり前のことを言っているのかって? しかしこれだって400年前には知られていなかった事実じゃないか。その時代に叫んだらあっと言う間に狂人さ! 常識人ぶるのをやめろ。やめるんだよ!

 もう耐えられそうにないんだ。助けてほしい。でも、まともになりたいわけでは決してない。普通の、よい人間になんてなりたくない。今のほうが正常なんだ。俺はまったく正気なんだよ。狂っているのは世界のほうだ。だから俺がこんなにおかしくなってしまったって、それは仕方のないことなんだ。

 俺はずっと考えてきた。それで本当に、世界が狂っている証拠を見つけたんだ。それがこれさ。

 なあ、わかるか? 世界ののちに識域、識域ののちにふたたびの世界! 生ののちに死、死ののちにふたたびの生だ。

 病院に行けって? 何度も言うが、俺はこの狂った世界に適応なんてしたくないんだよ。もちろん何百回だって聞いたさ。医者、カウンセリング、グループトーク、グリーフケア。グリーフケア? ばかばかしい。妻に出ていかれた夫の会? そこで何を話すっていうんだ。そもそも俺は立ち直りたくないんだ。ずっと悲しみに浸っていたい。そうでないなら、あの歳月は何だったんだ? 俺が信じた愛と、家庭と、社会的な成功と、正義と、そんなものはどこへ行ったんだ? そもそもそんなものはなかったっていうのか?

 いや、極端な考えはやめよう。ただ俺がうまくやれなかっただけなんだ。ほかの人間は適応しているわけだからな。俺は落伍者なんだよ。だから今更適応なんてしたくないんだ。本当はこの考えすら嘘だ。俺は自分を守るために自分を落ちぶれたように見せかけているだけさ。俺は落伍者なんかじゃない。ちゃんとやっていけるのにそれを自主的に放棄しているだけさ。だから放っておいてくれ。

 こんなことを考えたいわけじゃない。こんな言い訳を振り回したいんじゃないんだ。でも、仕方のないことなんだよ。ほかに何ができる?

 いや、話が逸れた。俺は正気なんだ。それだけだよ。俺は世界の真理を発見した。生ののちの死、死ののちのふたたびの生だよ。俺が死ぬだろう? そうして俺は生まれるんだ。

 馬鹿なことをって? 馬鹿はおまえだ。狂人呼ばわりされようと真理はあるんだよ! 400年前からインスリンデは存在したんだ! 最悪なことにな!

 つまりこうさ。ペイルが何かお前は知っているはずだ。論が複数あるって? 過去だよ。記憶だ。証拠はないが、そう考えるだろう? それだけですべての辻褄が合う。

 世界、記憶、そうして世界。それに対応するなら、生、記憶、そしてふたたびの生だ。ほら、すべての辻褄が合う。ここに俺は記憶を置いていく。それですべてさ。俺は死んで、俺は生まれなおす。

 支離滅裂なのはお前のほうだ。俺はやり遂げる。俺はこんな生物でいたくないんだよ。俺はもうこの世界に存在したくないんだ。うんざりしているんだよ。だから俺からおさらばする。それでもう一度生きなおすんだ。

 どうせ生きるなら死ぬ必要はないだろうって? 違うさ。俺は自分が「こう」でないならそれでいいんだ。でも、俺は「こう」なんだよ。この俺を大事にしてやれるのは俺だけだ。なあ、変わるくらいなら俺は死ぬ。殻を破れ、悲しみを受け入れろ、社会に存在しろ。そんなのはもううんざりだ。俺はここでそのすべてを否定して死ぬ。そののち? それは別の俺の担当さ。俺の記憶はもうすぐ消えるんだ。そんなのは知ったことではない。だからカモメだってぶっ壊すし車だって海にどぼんさ!

 でも、そうだ。もしも何か一つこの世界に言い残すことがあるなら、この最高の真理を教えてくれてありがとうって言おうじゃないか。

 愛しているよ! ペイル! 最悪な、蒼褪めた記憶たち! 愛しているよ! ドロレス・デイ! 愛している――







 ……ドーラ。