ヴァ・メドー戦の記憶

知らないことを知ることは楽しい。
リンクはそう思っている。

厄災も、英傑も、姫も、何も知らない。いとも簡単に戦うなどと口に出来たのもそのせいだ。どこか懐かしい声と、出会った幾人かの願いにやさしく導かれて、リンクは旅をしていた。



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リトの村で100年前の記憶とともに甦った屈辱と羨望はふいに消え去り、かわりにわき起こったのは僅かな怒りだった。

英傑リーバル様。
呼び方を知らず、村のだれかをまねて呼びかける。
それでも貴方は死んだじゃないか。貴方の矜持も、武勇も、百年も前に無くなってしまって、もうここには怯懦と虚勢しか残っていないじゃないか。

リンクは堪らず走り去った。



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テバに聞かれて見ていられないと答えたのは本心だ。



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ヴァ・メドーへ向かい空をかける中で、リンクの気持ちは不思議と高揚していた。耳元で唸る冷たい風も、竦み上がるような高さも、この気持ちを萎ませることはなく、逆に笑いたいような気もしていた。

向けられたテバの背中を見て、すんなりとその上に乗れた。足をおく位置も、掴むべき場所も、そうでない場所も体が覚えていた。
例えば馬の乗り方のように、例えば弓の引き方のように、リンクの体がリト族のことを覚えていた。
それがどういう意味か、リンクはきちんと理解した。100年前のリンクも、こうやってヴァ・メドーへ向かったのだ。彼の体の温かさ、捻くれた優しさを感じながら。
100年前のリンクが抱いたこのくすぐったい気持ちを、彼へ伝えたことはあったのだろうか。
テバと共に空をかけながら、リンクはそう思った。
もしもそうなら良いと思う。今のリンクが失い、もう取り戻せないものが、一時でも形を持っていたなら。

そしてリンクはテバの背中から飛び出した。弓を構え、矢を番える。
誰にも負ける気はしなかった。